こんにちは!ピアノ講師の中尾紗知です。
最近、子育ての世界では「子供の自主性を尊重する」「自己肯定感を高めるために褒めて育てる」という考え方が主流です。
もちろん、それは大切なことです。しかし、ピアノの指導現場にいると、その言葉が少し独り歩きしているように感じることがあります。
「子供が嫌がるから」「自主性に任せているから」と、ちょっとした壁にぶつかっただけで練習を投げ出したり、辞めたりすることを肯定していませんか?
「子供がちょっと練習しただけで『嫌だ』って言うんです。無理にやらせるのもかわいそうだし、親の考えを押し付けたくないんです。自主性を大事にするなら、やめた方がいいんでしょうか…?」こんなご相談をよく受けます。
今日は、そんなお悩みをもつパパ・ママにこそ知ってほしい「ピアノと心の関係」についてお話しします。
1. 「嫌だ!」は、成長したいサインかも?
小さなお子さんが「できない!嫌だ!」となるのは、実は「もっと上手になりたい」という意欲がある証拠なんです。
ここで「じゃあ、やらなくていいよ」とすぐに切り上げてしまうのは、実はもったいないこと。
「嫌なことはすぐに避けちゃえばいいんだ」というクセがついてしまうと、将来社会で壁にぶつかった時、一番苦労するのはお子さん自身かもしれません。
2. ピアノは「心の野菜」です
バランスの良い食事にお野菜が欠かせないように、心の成長にも「ちょっとした苦労を乗り越える」という栄養が必要です。
• 好きなことだけ: 心の偏食(我慢する力が育たない)
• ピアノの練習: 心の栄養バランス(地道に頑張る力がつく)
ピアノは、数日でパッと弾けるようになるものではありません。でも、「昨日までできなかったことが、今日できた!」という小さな成功体験を積み重ねることで、ネットや動画では手に入らない「本物の自信」が育ちます。
3. 私たちは、パパ・ママの「伴走者」です
本当の意味でのピアノレッスンの目的は、ただピアノの技術を教えるだけではないと私は考えています。ピアノの技術習得という手段を使いながら、お子さんが「壁を乗り越える練習」をお手伝いすることなんです。
• 「嫌だ!」となった時に、どう声をかけたら「もう一回」と思えるか。
• すぐに諦めそうになった時、どうやって寄り添い、背中を押すか?
一人で抱え込まず、一緒に「粘り強い子」を育てていきませんか?
「できない自分」にキレていた小4の男の子が、変わった瞬間
以前、レッスン中に「できない!」と激しく怒り、態度を乱してしまった小4の男の子がいました。あまりの態度の悪さに、私も心を鬼にして「今日のレッスンはここまで。帰りなさい」と中断したこともあります。
彼は、やる気がないわけではありませんでした。むしろ逆で、「できない自分」が許せなくて、その悔しさのやり場がわからなかったのです。
ここで「自主性」を履き違えていたら、「本人が嫌がっているから辞めさせます」となっていたかもしれません。でも、彼のご両親は違いました。
家族が一つのチームになった
お父さんもお母さんも、彼の苦しみに寄り添い、家庭での練習時間を確保して、粘り強くサポートし続けてくれたのです。
「嫌なら辞めていいよ」と突き放すのではなく、「どうすれば乗り越えられるか」を家族全員で考えた結果、少しずつ、彼は自分の感情をコントロールできるようになっていきました。
フィギュアスケートの話で見せた「成長」
ある日のレッスンで、彼とフィギュアスケートの話をしていた時のことです。
彼はテレビで滑る選手たちの姿を思い出しながら、ポツリと言いました。
「あんなにくるくる簡単に回っているのは、相当な練習をしてるんだよね。簡単そうに軽々やってるように見えるけど……。この曲も、速いテンポで弾くほうが軽くていい感じに聞こえるけど、実は弾いてる方はかなり難しいことやってるんだよね。簡単そうに聞こえるだけなんだよね」
この言葉を聞いたとき、私は本当に嬉しくなりました。
「やっと、わかったね!」と。
彼は、自分が「できない!」と葛藤し、ご両親と一緒になって練習を繰り返した経験があったからこそ、華やかに見える世界の裏側にある「本当の努力」に気づくことができたのです。
もし、壁にぶつかった時に「嫌なら辞めていいよ」と終わらせていたら、この深い気づきに出会うことはなかったでしょう。
ご両親が逃げずに彼と向き合い、応援し続けたあの時期。
それは彼にとって、単にピアノが弾けるようになった期間ではなく、「努力の価値を知り、壁を乗り越える自分を信じられるようになった期間」だったのだと思います。若いパパとママでしたが素晴らしい子育てをされてるなと感心しました。
今の「自主性」や「褒める教育」の流行の中で、親が子供に「NO」を言ったり、踏ん張らせたりすることは、とてもエネルギーがいることです。
でも、その先にしかない、お子さんの「本当の成長」があります。
まだ小さい子ども達のパパ・ママも、これから先、お子さんが壁にぶつかる時がきっと来ます。
その時、どうか「放棄」ではなく「本当の意味での寄り添い」を選んであげてください。




